2013.09.30
【 苦悩の根元について 】
総ての人間がもつ悩みや苦しみの根元はどこからくるかと云うと、
結局「生」そのものが持つ矛盾から起っていることを知らされる。
即ち「生」は生きることであり、生きたいと云う欲望そのものであるのに、
事実は正反対の「死」がその最後の結末であるからである。
たとえばどんな高貴な身分の人でも、或は生神や生仏を以て任ずる人達でも、
この死の拘束から離れて、一日はおろか一刻、一瞬たりとも生きていることは出来ないのだ。
従って道を求める我々は、まずこの生の矛盾を自覚することからはじめて、
それから人生に対する問題の解決を、はかるようにしなければならない。
人生のあらゆる問題の根元が、結局この生と死の矛盾の顕れとするならば、
人生百般の問題は、総て期待してはならぬことを期待し、
期待と事実が反することが原因となって生ずると云うことがわかる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 宗 道臣
宗道臣(1911-1980)とは、少林寺拳法の創始者(開祖)です。
困窮の幼少期を過ごし、早くから家族を失い、天涯孤独となった宗道臣開祖。
戦争を体験し、戦後の日本の混乱期においてみられた人間の弱さ・醜さを憂い、
「人、人、人、すべては人の質にある」と悟り、
「武道による人づくり、人づくりによる国づくり」を志し少林寺拳法を創始しました。
人づくりゆえ、少林寺拳法には様々な「教え」があり、開祖の実体験に基づいた「ことば」があります。
そして、その教えの柱となるものは釈尊の教えであり、上のことばも釈尊の教えをもとに開祖がまとめたものです。
誰もが悩みや苦しみをもつのが、この世の常です。
そして、その悩み苦しみのおおもとは、生の欲望に対して死という結末が必ずあるという矛盾からきています。
誰もが避けられないこの事実をもとに、苦悩は期待と事実が反する(矛盾する)ことにより起るのだというのです。
・・・期待してワクワクすることも素晴らしいことです。
また、夢を持つことや、希望に向かって進むことも、とても大切です。
強く願い、行動することで、夢や希望が現実になるのだといえるでしょう。
要は、「期待してはならぬこと」を期待することがいけないのです。
期待してはならぬことを期待することが悩み・苦しみだと自覚(諦める=明らかにする)することです。
釈尊は、「生も苦しみであり、老も病いも、死も苦しみであり、怨みあるものに会い、
愛する人と別れなければならぬのも苦であり、また求めて得ざることも総て苦しみである。」といっています。
そしてそれらの「苦」はこの世に生きている以上避けられないものである、と。
そのように世の物事をありのままに正しく見つめ、それを諦め、その上で、
妄執や渇愛といった自我心を変え、数々の正しい実践をする事が苦悩を克服する道だというのです。(四諦八正道)
しかし、なかなか妄執や渇愛がなくならないのが人間です。
だから、自分から離れ、他の人に目を向けること、他の人を思いやることが大切なのだと思います。
開祖のことばに「半ばは自己の幸せを 半ばは他人(ひと)の幸せを」というのがあります。
先に「己」を出すように、まず自己を大切にすることが必要。
しかし、己がすべてではない。半分でも相手のことでものを考えてあげる。相手の幸せを願い行動をする。
それが幸福であり、平和への道だ、というものです。
さまざまな極端を捨て、自己も生かし他人をも生かすことを「中道」の生き方といいます。
妄執や渇愛がなくならない自己を自覚し、諦め、それでも中道めざして生きていく。
「人の質」とは、そんな「生きる姿勢」により変わっていくのだと思います。
Copyright (C) kinsei.cloud-line.com All Rights Reserved.